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東京高等裁判所 昭和34年(う)2183号 判決 1960年7月14日

控訴人 被告人 大川卯八

弁護人 天野郷三

検察官 被告人 山口鉄四郎

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人天野郷三提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。

論旨は、被告人は昭和二十六年以来東京都新宿区市ケ谷柳町四十七番地に工場を設け政府に申告して物品税法にいわゆる第二種の物品であるブランコ、シーソー等の遊戯具の製造をなし、昭和三十二年三月同都足立梅島町三十三番地に工場を移転し今日に至つたものであるが、物品税法第十五条に規定する製造者の申告義務は同条所定の物品を製造せんとするとき即ち製造開始の時一回これをなせば足り、その後廃業しない限り更に同条に基く申告の義務はない。唯製造場を移転したときは同法施行規則第十条による移転の申告をなす義務はあるが同法第十五条による申告義務はないのに被告人の本件所為を同法第十条違反に問疑した原判決は法令の適用を誤つたものであるというに在る。

よつて按ずるに、物品税法第十五条は製造者の申告義務として、第二種又は第三種の物品を製造せんとする者は命令の定むる所に依り政府に申告すべし、製造を廃止せんとするとき亦同じと規定し、右物品を製造しようとする者が如何なる申告書を政府の如何なる機関に提出して為すべきかは一切これを命令の定むるところに委任しているのである。そして右規定に基き同法施行規則第四条第一項は、製造の申告につき、物品税法第一条第一項(課税物件)に掲ぐる第二種又は第三種の物品を製造せんとする者は、製造場及び製造すべき物品を定めその住所及び氏名又は名称を記載したる申告書を製造場所轄税務署に提出すべき旨及び同規則第七条は右申告した事項に異動を生じたるときはその都度所轄税務署に申告すべき旨を各規定し、また同規則第九条は製造の廃止につき、第二種又は第三種の物品の製造を廃止せんとするときはその旨を所轄税務署に申告すべき旨規定している一方物品税法第四条は、物品税は第二種又は第三種の物品に付いては、製造場より移出された物品の価格又は数量に応じ、製造者より徴収することを、同法第八条は第二種の物品の製造者は、毎月その製造場より移出した物品に付その品名毎に数量を記載した申告書を翌月十日迄に政府に提出すべきことを各定め、同法第十六条は、第二種又は第三種の物品の製造者に帳簿を備え命令の定める事項をこれに記入すべきことを命じ、同法第十七条は収税官吏は、右物品の製造者に質問し、又は、製造者の所持する帳簿書類若くは製造上必要な建築物、機械器具その他の物を検査し監督上必要な処分をすることができる旨を規定しているのに徴すれば物品税法第十五条のいわゆる製造者の申告は、物品税の徴収を確保するため製造者(納税義務者)及び製造場の所在を明らかにすると共に、収税官吏が同法所定の質問、検査又は監督を行う必要上これを為さしめるものであることが明らかである。してみれば物品税法第十五条の製造者の申告は同条所定の物品の製造場毎にこれをなすべきことを規定したものと解するを相当とする。してみれば同法の規定に基く前記物品税法施行規則の各規定は物品税法第十五条の委任の範囲内で制定されたものというべきである。所論は被告人の所為は物品税法施行規則第十条に規定する製造場移転の申告義務違反であつても、物品税法第十五条の無申告製造には該当しないと主張するのであるが、右規則第十条は製造者の申告義務について、第二種又は第三種の物品の製造者は製造場を移転せんとするときは移転の事実を具し、第四条(製造開始の申告書の提出)及び前条(製造等の廃止の申告)の規定に準じ申告を為すべしと規定しているのであつて、即ち製造場を移転せんとするときは、旧製造場については移転につき廃止する旨を同規則第九条に準じその所轄税務署に申告し、移転先の製造場については旧製造場より移転し製造を開始する旨を同規則第四条に準じその所轄税務署に申告すべきもので、物品税法上いわゆる製造場移転の申告なるものは存しないのである。然らば被告人の本件所為を物品税法第十五条第十八条第一項第一号同法施行規則第四条に問擬した原判決の法令適用は正当であつて論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条第百八十一条第一項本文に則り主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岩田誠 判事 渡辺辰吉 判事 司波実)

弁護人天野郷三の控訴趣意

一、原審は弁護人から本件事案は仮りに他の犯罪事実に該当しても公訴の無申告製造犯には該当しない旨抗弁したが、之を排斥して公訴の通り物品税法第十五条、同第十八条第一項第一号を適用し無申告製造犯の判決をなした。

二、乍然被告人は昭和二十六年以来新宿区市ケ谷柳町四七番地の工場にてブランコ、シーソー等の遊戯具の製造をなし昭和三十二年三月足立区梅島町三三番地に工場を移転したものである。

昭和二十六年其製造を政府に申告し物品税の納入をしたものであることは被告人から原審に提出した昭和二十六年度物品税領収証により明かである。そうして昭和二十六年から今日迄其製造を継続している。右の事実関係は原審に於ても明かであつた。

三、問題は物品税法第十五条の政府への申告義務が昭和二十六年の製造開始のとき申告すれば足るのか、又は更に其後に於ても工場移転の都度本条の申告義務があるのかと言う法律解釈の問題である。関係法規を調査しても工場移転の都度物品税法第十五条の製造申告をなすべきようの規定がなく、却つて物品税法施行規則第十条には「製造物を移転せんとするときは移転の事実を所轄税務署に申告すべし」としている。従つて転廃業しない限り継続製造期間内は当初に一回製造申告をなし爾後工場移転のときには施行規則第一〇条により移転申告をなすよう法定されたものと解しなければならない。判例(昭和二七年一一月一〇広島高裁二判昭和二七年(う)六二〇号高裁刑特報二〇号一一二頁)に於ても物品税法第十五条の規定による製造者の申告は製造を開始しようとするとき一回だけ行えばよいとの趣旨である。

四、原審に於ける判決言渡の時の理由説示では、極端な場合を言へば九州から北海道へ移転した場合でも移転申告でよいと言ふことになるから弁護人の無申告製造犯不成立の主張は採用出来ない。との説示であつた。乍然規則第一〇条は勿論国内工場移転の場合を規定するものであり移転先が遠隔地の場合は製造申告となり近接地の場合は移転申告となる旨の規定ではない。物品税法施行地域に及ぶ施行規則であつて地域や距離的制限のないこと謂う迄もない。従つて本件事案は規則第一〇条違反による移転申告義務違反であつても無申告製造の場合には該当しない。故に原審が無申告製造犯の成立を認定したのは物品税法第十五条及び同法施行規則第十条の解釈を誤つた誤判である。

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